精神疾患とはなにか?どんな種類の病いがあるのか、歴史的な背景も。

精神疾患の包括的解析:定義、分類、症候学、および歴史的変遷に関する調査報告書

実は私、39歳〜40歳にかけて適応障害となり全然仕事ができない状態が約半年続いた。適応障害は精神疾患ではないのだが、精神科医による「うつ病」の診断が怖かったから受診していなかったので、本当はうつ病だったのかもしれない。

この調査レポートを読むことで、精神疾患とは歴史的にどのように扱われてきたのか、またどんな種類があるのかがわかる。精神疾患の人が増えている昨今、皆様に知っておいていただきたい。

読者の皆様のご意見や感想をコメント頂けると幸いだ。

目次

第1章 序論:精神医学の概念的枠組みと現代的定義

精神疾患(Mental Disorders)とは、個人の認知、感情制御、または行動において臨床的に意味のある変調が生じている症候群を指す。これは、生物学的、心理的、あるいは発達的な過程における機能不全を反映したものであり、通常、社会生活、職業生活、または他の重要な活動領域における著しい苦痛や機能障害を伴う。現代精神医学において、精神疾患は単なる「心の弱さ」や個人の性格的欠陥ではなく、医学的な介入を要する健康状態として定義される。   

本報告書では、精神疾患の定義、歴史的背景、主要な分類と症候学について、生物・心理・社会モデル(Biopsychosocial Model)の観点から包括的に論じる。

1.1 生物・心理・社会モデル(Biopsychosocial Model)の採用

精神疾患の理解において、従来の還元主義的な生物医学モデル(Biomedical Model)―すなわち、すべての精神現象を脳の生化学的異常のみに帰結させるアプローチ―には限界があることが指摘されてきた。1977年、ジョージ・エンゲル(George Engel)は、精神疾患を含むあらゆる健康問題を、以下の3つの領域の相互作用として捉える生物・心理・社会モデル(BPSモデル)を提唱した。   

領域具体的な構成要素臨床的含意
生物学的要因 (Bio)遺伝的負因、脳構造の異常、神経伝達物質(セロトニン、ドパミン等)の不均衡、身体疾患、薬物の影響薬物療法、身体的検査、生活リズムの調整が必要となる基盤
心理学的要因 (Psycho)性格傾向、認知の歪み、感情制御能力、ストレス対処スキル(コーピング)、過去の記憶、トラウマ精神療法(カウンセリング)、認知行動療法(CBT)による介入領域
社会的要因 (Social)家族関係、職場環境、経済状況、社会的孤立、文化的背景、成育歴環境調整、福祉的支援、リワーク(復職)支援などの社会的介入

BPSモデルの視座に立てば、精神疾患の発症と経過はこれら3要素の複雑な相互作用によって決定される。例えば、うつ病の発症において、遺伝的な脆弱性(Bio)を持つ個人が、離婚や失職といった社会的ストレス(Social)に晒され、その結果として「自分は無価値だ」という否定的な認知(Psycho)が強化されるという悪循環が生じる。したがって、治療においても薬物療法単独ではなく、心理社会的支援を含めたホリスティック(全人的)なアプローチが不可欠となる。   

第2章 日本における精神医療史と法制度の変遷

精神疾患の概念と扱いは、その時代の社会構造や法制度と密接に連動して変遷してきた。日本における精神医療の歴史は、「私宅監置」という隔離の時代から、病院収容主義を経て、現代の「地域移行」へと至る長い道のりである。

2.1 近代以前から精神病院法(1919年)まで

明治以前の日本において、精神障害を持つ人々は主に家族の責任の下、自宅内の座敷牢などに隔離されるか、寺社での加持祈祷に頼るのが一般的であった。明治期に入り、西洋医学(主にドイツ精神医学)が導入されたが、公的な精神医療体制の整備は遅々として進まなかった。

1900年(明治33年)に制定された「精神病者監護法」は、精神障害者を自宅に監禁する「私宅監置」を法的に追認するものであり、治安維持的な側面が強かった。この状況を変えるべく尽力したのが、東京帝国大学教授の呉秀三である。彼は「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」において、「わが邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と述べ、非人道的な処遇を痛烈に批判した。   

これを受け、1919年(大正8年)に「精神病院法」が制定された。同法は道府県に精神病院の設置を促すものであったが、国の財政難もあり、実際に公立病院の設置が進むことは少なく、私宅監置の実態は依然として継続された。   

2.2 戦後の精神衛生法(1950年)とライシャワー事件

第二次世界大戦後の1950年(昭和25年)、「精神衛生法」が制定され、私宅監置はついに禁止された。これにより、精神医療の場は家庭内の座敷牢から精神科病院へと移行した。しかし、公的病院の整備は追いつかず、民間病院への依存度が高まっていった。

1964年(昭和39年)、当時の駐日アメリカ大使ライシャワー氏が、精神障害を持つ少年に刺されるという事件(ライシャワー事件)が発生した。この事件は社会に大きな衝撃を与え、精神衛生法が改正され、強制的な入院形態である「措置入院」の運用強化や、患者の隔離・収容を重視する政策へと大きく傾いた。この時期に民間精神科病院が急増し、日本特有の「収容主義」的な医療体制が固定化されることとなった。

2.3 宇都宮病院事件(1984年)と精神保健法への転換

日本の精神医療における人権問題が国際的な批判を浴びる決定的な契機となったのが、1984年(昭和59年)の宇都宮病院事件である。栃木県の宇都宮病院において、看護職員による入院患者への暴行致死事件が発覚し、さらに無資格診療や不当な身体拘束などの実態が明らかになった。   

この事件を受けて、国連人権委員会などからの外圧もあり、1987年(昭和62年)に精神衛生法は「精神保健法」へと抜本的に改正された。主な変更点は以下の通りである。   

  • 人権擁護の明文化: 任意入院(本人の同意による入院)の促進。
  • 精神医療審査会の設置: 入院の必要性や処遇の妥当性を第三者が審査する仕組みの導入。
  • 社会復帰施設の法制化: 病院から地域への移行を意識した施策の開始。

2.4 精神保健福祉法(1995年)と近年の動向

1995年(平成7年)、法律名は現在の「精神保健福祉法」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)へと改称された。「福祉」という言葉が加わった通り、精神障害者の自立と社会参加の促進が法の主目的の一つとなった。

さらに、2022年(令和4年)の法改正(2023年〜2024年順次施行)では、地域生活支援のさらなる強化が図られている。   

  • 家族等の同意要件の見直し: 医療保護入院における家族の負担軽減と、意思決定支援の重視。
  • 入院者訪問支援事業: 外部の支援者が入院中の患者を訪問し、権利擁護や退院に向けた相談を行う事業の創設。
  • 虐待防止の強化: 病院従事者による虐待の通報義務化。

現代の日本の精神医療は、長期間の社会的入院を是正し、地域社会の中で医療・福祉の支援を受けながら生活する「地域包括ケアシステム」の構築へと舵を切っている。

第3章 精神疾患の分類体系と診断基準

精神疾患の分類には、世界的に標準化された2つの主要な診断基準が用いられている。

  1. ICD(国際疾病分類): 世界保健機関(WHO)が作成。死因統計や行政上の分類(障害者手帳の等級判定など)に用いられる。最新版はICD-11であるが、現在日本国内ではICD-10(第10版)が広く使用されている。   
  2. DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル): アメリカ精神医学会(APA)が作成。操作的診断基準を採用しており、研究や臨床現場での共通言語として機能している。現在はDSM-5(第5版)が主流である。   

以下、ICD-10の第5章「精神および行動の障害(Fコード)」の枠組みを参考に、主要な精神疾患群について詳述する。   

第4章 気分障害群(Mood Disorders)

気分障害は、感情の状態が極端に変動し、持続的な苦痛や機能障害を引き起こす疾患群である。ICD-10ではF3セクションに分類される。   

4.1 うつ病(Major Depressive Disorder)

うつ病は、精神的ストレスや身体的要因が重なり、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン等)の機能不全が生じている状態である。   

4.1.1 症候学:精神・身体・行動のトライアド

うつ病の症状は多岐にわたり、患者本人が精神的な不調を自覚する前に、身体的な不調(不定愁訴)として現れることが多い(仮面うつ病)。   

カテゴリ具体的な症状と臨床的特徴
精神症状抑うつ気分: 一日中続く気分の落ち込み。
興味・喜びの喪失(アンヘドニア): 趣味や娯楽への関心が消失する。
否定的認知: 自責の念、無価値感、「自分はダメな人間だ」という確信。
希死念慮: 「死にたい」「消えてしまいたい」という切迫した思考。
精神運動制止: 思考が働かない、決断できない。
身体症状睡眠障害: 入眠困難、中途覚醒、特に早朝覚醒が特徴的。過眠の場合もある。
食欲・性欲の減退: 体重の急激な減少。
自律神経症状: 動悸、めまい、口渇、便秘、慢性的な頭痛や肩こり。
易疲労性: 休んでも取れない極度の倦怠感。
行動の変化表情の喪失(仮面様顔貌)、口数の減少、遅延した反応、身だしなみの乱れ、アルコール摂取量の増加、仕事や家事の能率低下。

4.1.2 治療と支援

治療の原則は「休養」「薬物療法」「精神療法」の3本柱である。

  • 薬物療法: SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRIが第一選択となる。効果発現には数週間を要するため、焦らず継続することが重要である。   
  • 精神療法: 認知行動療法(CBT)により、自分自身や世界に対する否定的な認知の歪みを修正し、ストレスへの対処能力を高める。   

4.2 双極性障害(Bipolar Disorder)

かつて「躁うつ病」と呼ばれた双極性障害は、著しい気分の高揚(躁状態)と抑うつ(うつ状態)を反復する疾患である。うつ病とは異なる生物学的基盤を持つため、抗うつ薬単独での治療は躁転(躁状態を誘発すること)のリスクがあり、鑑別診断が重要である。   

4.2.1 躁状態とうつ状態の対比

双極性障害の病像は、躁状態の程度によってI型(激しい躁)とII型(軽躁)に分類される。

  • 躁状態(Manic Episode):
    • 気分の高揚・易怒性: 万能感に満ち、些細なことで激怒する。
    • 活動性の亢進: 睡眠欲求の減少(寝なくても元気)、多弁、観念奔逸(次々とアイデアが浮かぶ)。
    • 衝動的行動: 多額の浪費、無謀な投資、性的逸脱など、社会的信用を毀損する行動が見られる。   
  • うつ状態(Depressive Episode):
    • うつ病と同様の症状だが、双極性障害のうつ状態はより重篤で、身体鉛様麻痺(体が鉛のように重い)や過眠を伴うことが多く、自殺リスクも高い。   

4.2.2 治療戦略

双極性障害は再発率が高いため、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)や非定型抗精神病薬による維持療法が治療の中心となる。心理教育を通じて、本人と家族が再発の兆候(初期サイン)を早期に察知し、生活リズムを一定に保つことが重要である。   

第5章 統合失調症スペクトラムと精神病性障害

統合失調症(Schizophrenia)は、思春期から青年期にかけて発症することが多く、思考、知覚、感情、意欲などの精神機能がまとまりを欠く状態となる疾患である。ICD-10ではF2セクションに分類される。   

5.1 臨床症状の二大分類

5.1.1 陽性症状(Positive Symptoms)

本来存在しないものが「ある」ように感じられる、急性期に目立つ症状。

  • 幻覚: 特に幻聴(自分の悪口や命令する声が聞こえる)が特徴的。
  • 妄想: 訂正不能な誤った確信。被害妄想(狙われている)、関係妄想(周囲の出来事が自分に関係している)、注察妄想(監視されている)など。
  • 思考障害: 話の脈絡がなくなる(滅裂思考)。

5.1.2 陰性症状(Negative Symptoms)

本来あるべき精神機能が「失われる」症状で、慢性期に目立ちやすい。

  • 感情平板化: 喜怒哀楽の表現が乏しくなる。
  • 意欲減退(アボリション): 自発的な行動が起こせない、入浴や更衣がおっくうになる。
  • 社会的引きこもり: 対人関係を避け、自室に閉じこもる。

また、近年では認知機能障害(記憶力、注意力、遂行機能の低下)が、社会復帰を妨げる主要因として注目されている。   

5.2 治療とリカバリー

治療の目標は、単なる症状の消失にとどまらず、患者自身が望む生活を実現する「リカバリー(Recovery)」にある。   

  • 薬物療法: ドパミン神経系に作用する抗精神病薬が基本となる。現在は副作用の少ない非定型抗精神病薬が主流である。
  • 心理社会的治療: SST(社会生活技能訓練)、作業療法、就労支援などを組み合わせ、再発を防ぎながら地域生活を維持する機能を高める。   

第6章 不安症群、強迫症、および心的外傷後ストレス障害

このカテゴリーの疾患は、過剰な「不安」や「恐怖」を中核とし、日常生活に回避行動をもたらすことを特徴とする。

6.1 パニック症(Panic Disorder)

突然、予期せぬパニック発作(動悸、呼吸困難、発汗、めまい、死の恐怖)が繰り返し生じる疾患である。   

  • 予期不安: 「また発作が起きるのではないか」という持続的な不安。
  • 広場恐怖(Agoraphobia): 発作が起きた際に逃げられない場所(電車、人混み、高速道路など)を避けるようになり、行動範囲が著しく制限される。   

6.2 強迫症(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)

不合理だとわかっていても頭から離れない強迫観念と、それを打ち消すための強迫行為にとらわれる。   

  • 洗浄強迫: 手の汚れが気になり、皮膚が荒れるほど手洗いを繰り返す。
  • 確認強迫: 鍵やガス栓の閉め忘れが気になり、外出できなくなるほど確認を繰り返す。
  • 加害恐怖: 誰かを傷つけてしまったのではないかと恐れ、来た道を戻って確認する。

6.3 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

生命の危険を感じるような強烈なトラウマ体験(災害、事故、暴力、性被害など)の後に生じる精神的後遺症である。   

症状クラスター具体的内容 
再体験(侵入症状)フラッシュバック(当時の感覚がありありと蘇る)、悪夢、トラウマを想起させる刺激に対する激しい心理的・生理的苦痛。
回避・麻痺記憶を喚起させる場所・人・会話の回避。感情の麻痺(愛着や喜びを感じられない)、現実感の喪失(解離)。
過覚醒常に神経が張り詰めている状態。不眠、イライラ、驚愕反応の亢進、集中困難。
認知・気分の陰性変化「世界は危険だ」「私は汚れている」といった極端な否定的信念、自責感、疎外感。

PTSDの治療には、トラウマ記憶を安全な環境で処理する持続エクスポージャー療法(PE)やEMDR(眼球運動による脱感作)などが有効とされる。

第7章 神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)

神経発達症(発達障害)は、脳機能の発達の偏りにより、幼児期から認知や行動の特性が現れる疾患群である。近年は「ニューロダイバーシティ(脳の多様性)」として、障害ではなく特性と捉える視点も広がっている。

7.1 自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder)

社会的コミュニケーションの障害と、限定された興味・反復行動を主徴とする。   

  • 対人相互反応の困難: 目が合わない、表情や非言語的サインが読み取れない、相手の気持ちを推測することが苦手。
  • こだわり: 特定の順序や道順への固執、予定変更へのパニック、特定の対象(電車、数字など)への没頭。
  • 感覚特性: 感覚過敏(聴覚、触覚など)または感覚鈍麻。

7.2 注意欠如・多動症(ADHD: Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)

不注意、多動性、衝動性の3要素を特徴とする。   

  • 不注意: ケアレスミス、忘れ物・紛失、話を聞いていないように見える、タスクの順序立てができない。
  • 多動性・衝動性: じっとしていられない、貧乏ゆすり、相手の話を遮る、順番を待てない。
  • 成人のADHD: 成長に伴い多動性は目立たなくなるが、「脳内の多動(思考がまとまらない)」や不注意による仕事上のミス、片付けられないといった問題が残存しやすい。   

発達障害を持つ人々は、周囲の理解不足から叱責を受け続け、二次的にうつ病や適応障害を発症するケース(二次障害)が多い。早期の特性理解と環境調整が不可欠である。

第8章 パーソナリティ障害(Personality Disorders)

パーソナリティ障害は、その人の属する文化から期待される範囲を著しく逸脱した認知・感情・対人関係のパターンが、青年期以降長期にわたって持続し、社会生活に支障をきたす状態である。他の精神疾患の背景に潜む「黒幕」として機能することもある。   

8.1 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)

自己像、感情、対人関係の著しい不安定性を特徴とする。DSM-5の診断基準では以下の要素が挙げられる。   

  • 見捨てられ不安: 現実または想像上の見捨てられることを避けるためのなりふり構わぬ努力。
  • 対人関係の両極端: 相手を理想化したかと思えば、次の瞬間にこき下ろすといった不安定な関係(脱価値化)。
  • 同一性障害: 自分が何者かわからない、空虚感。
  • 衝動性: 自傷行為、過量服薬(OD)、浪費、性的逸脱。
  • 一過性の精神病症状: ストレス時の解離やパラノイア。

8.2 自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)

誇大性(空想または行動における)、賞賛への欲求、共感の欠如を特徴とする。   

  • 特権意識: 自分は特別であり、特別扱いされて当然だという根拠のない感覚。
  • 他者の利用: 自分の目的のために他者を利用・搾取する。
  • 共感性の欠如: 他人の感情や欲求を認識・同一化しようとしない。

これらの障害の治療には、弁証法的行動療法(DBT)やメンタライゼーションに基づく治療など、長期的な精神療法アプローチが必要となる。   

第9章 物質関連障害と依存症

依存症(Addiction)は、脳の報酬系回路の機能変容により、特定の物質や行為を自分の意志で制御できなくなる疾患である。

9.1 アルコール依存症のメカニズム

アルコール依存症は、「否認の病」とも呼ばれ、本人が問題を認めにくい特性がある。以下の3つの要素が診断の鍵となる。   

  1. 精神依存: 飲酒への強烈な渇望(クレイビング)、飲むために嘘をつく、隠れて飲む。
  2. 身体依存: アルコールが体内から抜けると、手の震え、発汗、不眠、幻覚(振戦せん妄)、痙攣発作などの離脱症状(退薬症状)が出現する。これを抑えるために再び飲むという悪循環に陥る。
  3. 耐性: 同等の酔いを得るために、摂取量が次第に増大する。

9.2 薬物依存症

覚醒剤、大麻、オピオイド、処方薬(睡眠薬・抗不安薬)などの乱用が含まれる。特に近年は、市販薬や処方薬の過量服薬(オーバードーズ)が若年層で問題となっている。

第10章 認知症(Neurocognitive Disorders)

超高齢社会である日本において、認知症は最も重要な精神医学的課題の一つである。ICD-10ではF0セクション(器質性精神障害)に含まれる。   

10.1 主要な認知症の種類

種類特徴的病理と症状
アルツハイマー型認知症アミロイドβ蓄積による脳萎縮。近時記憶障害(新しいことが覚えられない)から始まり、見当識障害(日時・場所がわからない)へと進行する
血管性認知症脳梗塞や脳出血の後遺症。障害部位により症状が異なる「まだら認知症」や、感情失禁が見られる
レビー小体型認知症具体的で鮮明な幻視(いないはずの子供や虫が見える)、パーキンソン症状(歩行障害、振戦)、日内変動を伴う認知機能の動揺が特徴。

10.2 BPSD(行動・心理症状)への対応

認知症の症状は、脳細胞の脱落による直接的な「中核症状」(記憶障害など)と、それに伴う心理的・環境的反応である「周辺症状(BPSD)」に分けられる。   

  • BPSDの例: 徘徊、暴言・暴力、介護抵抗、不潔行為、物盗られ妄想。 BPSDは介護負担の主因となるが、本人の不安や不快感(痛み、便秘、孤独感など)の表現である場合が多く、適切なケアや環境調整、薬物療法によって改善が可能である。

第11章 産業精神保健と社会的包摂:結論に代えて

現代社会において、職場におけるメンタルヘルス対策は企業の法的義務となっている。厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」では、労働者、管理監督者、事業者それぞれに向けた支援情報が提供されている。   

11.1 ストレスチェック制度とラインケア

2015年より義務化された「ストレスチェック制度」は、労働者が自身のストレス状態を把握する一次予防のツールである。高ストレス者には医師による面接指導が推奨される。また、管理監督者が部下の変調に気づき対応する「ラインケア」の重要性も強調されている。   

11.2 総括:インクルーシブな社会へ

本報告書で概観した通り、精神疾患は誰の身にも起こりうる普遍的な現象である。歴史的に精神障害者は隔離と排除の対象とされてきたが、現代精神医学は、BPSモデルに基づき、医療・心理・社会福祉が連携した包括的な支援を目指している。 精神疾患を持つ人々が、その特性や症状と付き合いながら、地域社会の一員として尊厳を持って生きられる「インクルーシブ社会」の実現には、正確な知識の普及と、偏見(スティグマ)の解消が不可欠である。今後の精神医療は、単なる「治療」を超えて、人々のウェルビーイング(Well-being)の向上に寄与する社会的インフラとしての役割を担っていくことが期待される。

<参考文献・出典>
本レポートで参照した主な情報源および関連リンクは以下の通りです。

  1. 知っておきたい精神科の病名と症状 – 医療法人財団 岩尾会
  2. Three Aspects of Health and Healing: The Biopsychosocial Model in Medicine
  3. The Biopsychosocial Model of Mental Health – Delphis Learning
  4. Biopsychosocial Model in Contemporary Psychiatry: Current Validity and Future Prospects
  5. 精神保健福祉の歴史 – 高知県
  6. ICD-10(国際疾病分類)第5章 精神および行動の障害
  7. DSM 5: 境界性パーソナリティ障害 – 診断基準 : r/BPDlovedones – Reddit
  8. うつ病|こころの情報サイト
  9. パニック障害 – 医療法人東横会 心療内科 精神科 たわらクリニック
  10. 双極性障害とは(双極症) – こころシェア
  11. 双極性障害(躁うつ病)|こころの情報サイト
  12. 精神障害(精神疾患)の特性(代表例) – 厚生労働省
  13. 統合失調症 – こころの情報サイト
  14. 強迫性障害 強迫症状(強迫観念や強迫行為)の具体例 – めぐろ駅東口 メンタルクリニック
  15. PTSD|こころの情報サイト
  16. 発達障害(神経発達症)|こころの情報サイト
  17. パーソナリティ障害|こころの情報サイト
  18. 自己愛性パーソナリティ症 – 10. 心の健康問題 – MSDマニュアル家庭版
  19. 自己愛性パーソナリティ障害の特徴やタイプ、診断、治療 – ブレインクリニック
  20. 精神科 アルコール依存症④ 精神依存と身体依存とは – 銀座スピンクリニック
  21. 認知症の周辺症状を知ろう – 太陽生命
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